自己破産における財産処分の仕組み・手元に残せる「自由財産」の種類とは
自己破産では財産処分が行われるものの、生活に必要なものは「自由財産」として処分対象から除かれます。滞納による差押え・強制執行と比較すると、プライバシーを守りながら次の生活のための準備期間を十分に確保できる点もメリットです。
破産申立人の多くが誤解や不安を抱いている財産処分の仕組みについて、専門家が分かりやすく解説します。
自己破産による財産処分の仕組み
自己破産の手続きが始まると(=破産手続開始決定)、申立人の財産は原則上すべて「破産財団」に属します。その後は破産管財人(裁判所に選任された人物)の権限で申立人の生活に配慮しながら換価処分が実施され、債権者への分配が進められます。
【参考】自己破産の流れ(※少額管財事件の場合)
- ①弁護士に依頼:財産目録・家計収支表を作成
- ②申立準備:申立書とともに財産目録・家計収支表を提出
- ③破産手続開始の申立て:裁判所による書類チェック
- ④破産手続き開始決定:破産管財人の選任・債権者分配
- ⑤債権者集会・免責審尋:債権者から異議がなければ返済義務の免除へ
- ⑥免責決定
法律上、破産財団に属した財産がすべて分配されるまで、免責決定を受けることはできません。そこで、生活上どうしても必要な財産を残しながら免責を得るには、そもそも財団に属さないことが条件となります。
担保権があるものは必ず処分される(別除権)
例外的に、担保設定や所有権留保のある財産は、破産管財人ではなく債権者に処分の権限があるとされています(破産法第65条・第66条)。したがって、左記のような財産を手元に残しておくという選択は出来ません。
本ルールにより債権者の一存で処分される財産の代表例は、事業融資のため抵当権を設定した不動産・ローン返済中の持ち家や自家用車です。
当事務所での受任ケースでは、破産申立の際に担保権の有無を徹底調査し、処分の見通しについて緻密にご案内しています。
自己破産で処分されない財産
そもそも自己破産の目的とは、申立人の生活再建の実現です。債権者の利益保護とはいえ、全ての財産を無思慮に処分してしまっては、本来の制度趣旨を実現できません。
そこで、以下のような自由財産・新得財産については、破産財団に属させず申立人の手元に残せるものとされています。
現金・預貯金
申立人の当面の生活費として、現金は99万円まで手元に残せます(破産法34条3項1号)。
裁判所は、現金と普通預貯金をあわせた「現金等」と保険解約金等の「個別財産」をあわせて99万円の限度で、自由財産として認めている場合が多いと思われます。
左記運用は地裁により若干の違いがあるため、個別事例で手元に残せる金額を判断するには、過去の申立てケースに基づく判断が不可欠でしょう。
差押禁止動産(家財など)
自由財産の範囲には家具家電・仕事道具・祭祀に欠かせない用品も含まれ、具体的な品目には民事執行法のルールが準用されています(第131条/下記参照)。
【自由財産に含まれる「差押禁止動産」の種類】
- 衣服・寝具・家具・台所用具・建具
- 一カ月間の生活に必要な食糧および燃料
- 農具・漁具・肥料や飼料
- その他仕事上必要な道具
- 実印・仏壇仏具・家計簿
- 日記・商業帳簿
- トロフィー・勲章
- 未発表の発明や著作物
- 義足・義手などの医療器具
- 災害の防止条例に基づく器具
差押禁止債権(給料・年金など)
現金や家財類だけでなく、収入も処分されない財産のひとつです。
年金等の行政支援的性質を持つ収入は個別法により全額手元に残しておけます。
【自由財産に含まれる「差押禁止債権」の種類】
- 給料・賞与・退職金(民事執行法第152条)
- 老齢年金・障碍者年金(国民年金法第24条)
- 児童手当受給権(児童手当法第15条)
- 生活保護受給権(生活保護法第58条)
新得財産
破産手続開始後に新たに得た財産は、品目問わず手元に残せます。そもそも破産財団への組み入れ対象にはならないからです(破産法34条1項)。
具体例として、破産手続き後に家族を亡くし相続が開始されたケースや、損害賠償請求権が生じて実際に加害者から支払いが行われたケースが考えられます。
ただし、破産手続き中は管財人への収支報告義務があるため、新得財産があることも当然伝える必要がある点に注意しましょう。
自由財産の拡張が認められたもの
自由財産(現金・預貯金・差押禁止動産・差押禁止債権)の品目に該当しない資産でも、生活に必要不可欠と見なされたものは破産財団への組み入れを免れます。
このような自由財産の拡張は裁判所の判断で実施されます。
【一例】自由財産の拡張の対象となるもの
- 業務で必要なハイスペックPC
- 通院に必要な自家用車
どうしても残しておきたい資産を対し自由財産の拡張を認めてもらうには、破産申立時に相応の事情を裁判所の価値観に合致するかたちで説明する必要があります。
地裁の運用も含め、破産ケースを多く取り扱う専門家の知見は欠かせません。
滞納を長引かせるより自己破産したほうが良い理由
長期滞納が原因で債権者から執行があったケースでも、財産処分の基準(手元に残せるものと処分されるものの区別)は自己破産と破産宣告が下れば差押が停止扱いとなり、免責決定が確定すれば、差押が取消されることからしても、民事執行法上の差押禁止規定による保護より破産を選択した場合の方が経済的再生は、はるかに容易です。
一方で、プライバシー面・処分に備えた自宅退去などの準備期間については、自己破産のほうが債務者への配慮が行き届いています。
- 債務者のプライバシー・・・債権者による給料差押えは勤務先を通じて行われるため、秘密漏洩は回避できません。自己破産の場合は、破産管財人による通帳管理・申立人からの収支報告に沿って処分を進めるため、勤務先への連絡はまず行われません。
- 財産処分までの準備期間・・・債権者による執行は債務者側の都合がほとんど反映されません。債権者が金融機関である場合は、執行以前から預金口座が凍結されます。自己破産であれば、口座凍結や持ち家の処分時期にあらかじめ見通しを立て、生活への悪影響を極力抑えるための準備期間を作れます。
以上の点を考慮すると、どうしても返済できず債権者の執行に甘んじざるを得ない状況のときは、自己破産に踏み切るのが望ましい選択です。
財産処分の不安・疑問は当事務所にお任せ下さい
自己破産後も手元に残せる財産は、現金・預貯金・家財類・給料や年金と多岐に渡ります。
住宅や自動車を所有していないケースでは、財産処分が一切行われないまま免責許可に至る例も決して稀ではありません。
21年のキャリアを持つ宮重法律事務所は、多数の破産成功事例を通じて知識・経験に自信をもっています。失う可能性のある資産をご相談時点でしっかりとお伝えしながら、地裁運用にマッチする形で「自由財産の拡張」の実現可能です。
あらかじめ財産処分の見通しが立てば、今後の生活の変化に対する心の準備もしておけるでしょう。自己破産に対するご不安や誤解が解けるまで、ベテラン弁護士が何度でも無料でご相談対応いたします。